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みなさんに知っていただきたい

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理事長対談シリーズ

理事長対談シリーズVol.6

桜井“マッハ”速人 氏

格闘家

■Guest Profile■

桜井“マッハ”速人(さくらい“マッハ”はやと)

1975年茨城県龍ケ崎市出身

総合格闘家

マッハ道場代表

主な獲得タイトル:

第2回アブダビコンバット無差別級準優勝、77kg級3位

第4代修斗世界ミドル級王者

Golden Trophy 1999 優勝

PRIDE GP 2005 ライト級トーナメント準優勝 

 

96年、修斗のリングでプロデビュー。公式戦わずか6戦目でミドル級王者になるなど、アンデウソン・シウバに敗れるまで約5年間無敗を誇っていた。

その後、DEEPを経て、2003年12月31日の男祭りよりPRIDEに参戦。

2005年に行われたPRIDEライト級GPでは準優勝を果たした。

PRIDEの最後のイベントとなった2007年2月のラスベガス大会で勝利した唯一の日本人ファイターでもある。

 

桜井“マッハ”速人と思想家が語る

天才論 ZONEの世界

天才の脳の使い方、天才のメンタリティを徹底解剖

 

はじめに

この対談のきっかけは、本当に偶然でした。

共通の知人宅で行われたパーティーに、私とマッハさんが招待されました。

そのパーティーでマッハさんとお話している際、「相手の放つパンチがゆっくり見えたり」「自分のパンチが相手に当たった感覚がないのに、相手が簡単に倒れたり」「試合中に自分がひらめいた予測が当たったり」といった、初めて聞くようなお話が、マッハさんからたくさんありました。

これは他の誰も経験をしていないすごい話だ、とその時感じ、これは忘れてはいけないと思い、聞いた話をひたすらiPhoneにメモした記憶があります。

ZONEというのは、超集中したフロー状態のことです。一般の方でも交通事故にあったりするとその瞬間に全てがスローモーションとなり、命からがら助かったというような話です。

それを、実際の競技の中で何度も再現性を持って体現しているというお話です。

このお話を伺っていく中で、どうしたらZONEに入れるのか?

そしてZONEに入るためには、どんな条件が必要なのか、そもそもZONEに入るためのトレーニングは必要なのか、ZONEに入る時に兆しはあるのか、そんなことを聞いてみたいと思いました。

ZONE状態に入ったときの身体感覚、ZONE状態でパンチやキックを放ったら一体どんなことが起きるのか?

そんな疑問を聞いてみたい、そしてこの話を世に出したいという想いで、この対談が生まれました。

そして、対談ではZONEの話から、格闘技、努力とは、夢とは、目標とは、と広がっていきました。

未だに総合格闘技の世界でマッハさん以上の結果を残した選手は日本からは輩出されてはおりません。マッハさんの全盛期時には、記者が選ぶ総合格闘技実力世界一ランキングで、マッハさんは1位の位置にいた選手です、

格闘技世界一のマッハさんが非日常体験から得た、天才の「ZONEの世界」をこれから堪能していただけたらと思います。

第1章 ZONEに入る条件〜アラブでの御前試合で経験したZONE状態〜

司会:本日は元格闘家、現在は世界に思想を発信されている小楠健志さんと、現在世界で活躍されている格闘家、桜井“マッハ”速人さんの対談をお送りします。

お二人は同門の格闘家であること、世界でご活躍されたこと、そして現在は治療の道に進み社会貢献に努められていることなど、沢山の共通点があると伺っております。本日は興味深いお話が沢山聞けるのではないでしょうか。ではお二人ともよろしくお願い致します。

 

小楠、桜井:よろしくお願いします。

 

小楠:身体感覚、脳の状態といった観点から天才性を発揮している状態とはどういうものなのかを多くの方は知りたいと思っています。表面的な話ではなく、内面の状態を教えていただきたいです。多くの選手と試合をしてきた中で、ZONE状態に入り一番調子が良かったときとはどんな感覚でしたか?

 

桜井:はい。本当に不思議なもので、相手が勝手に倒れてくれます。「何故だ?わざと倒れているのでは?」と思いました。

 

小楠:それは、パンチで相手が簡単に倒れるということですか?

ガツンと当たった感覚もあまりなく?

 

桜井:ありません。「こんなパンチで倒れちゃうの?」という感じです。マイクタイソンの試合をスローモーションで見るとパンチが当たっていません。しかし相手選手は倒れてフラフラになっています。

 

小楠:今の時代はカメラも発達していますから、ボクシングでも試合後にKOシーンを超スローで流してくれます。確かにそのときに、頭部や顔面にクリーンヒットしているような映像は、あまり見たことがないですね。

 

桜井:そうですよね。

 

小楠:解説の人もいろいろなことを言いますが、スローモーションで見ても、クリーンヒットはあまり見かけません。

 

桜井:もちろん当たっているときもありますが、かすったようなパンチで倒れる試合も多くあります。実際にはパンチが効いて倒れている訳ですから不思議です。僕が感じた感覚もそれだと思います。

 

小楠:おそらく、かするくらいの力が750ccのバイクが、頭部をかすっていったくらいの威力を持っていたのではないでしょうか。それだけ脳のリミッターが外れ、昔で言うところの「火事場の馬鹿力」が出ていたのだと思います。

 

桜井:今考えるとそう思います。

相手と試合をしているように感じますが、実際はそうではありません。よく「自分との戦い」と言われるように、己の最大の敵は己であり、己に勝たなければなりません。そして、自分が100%だとしたら、120%とか130%出せば絶対に相手に勝てます。

ましてや自分が世界ランカーならば、自分より上はそんなに多くないのですから、120%の力を出せれば、世界トップクラスです。

次に、いかに120%の力を叩き出すかというのを考えました。

相手に勝つ為にはいろいろな方法があり、はじめはそれを考えるのですが、試合直前には考えるのを止め、いかに自分の持っている能力を限界以上に引き出せるかということをずっと考えます。

それが出来れば、自然と結果が出ます。

 

小楠:なるほど。一般的に指導者は「全力を出せ、練習でやったことを出せ」と言います。その通りかもしれませんが、トップの世界に行けば行くほど100%の力でも勝てなくなりますね。

 

桜井:そうです。つまり考え方が間違っていて、相手に勝とうと練習したものではなく、自分が根本に持っている全てのものを超越していかなければならないということです。

勝つ為に練習は必要なものですが、こうした考え方を念頭に置いていなければなりません。

 

小楠確かに練習をすることで自分以外の者になろうとか、自分以外の能力を付け足そうとする人もいます。いろいろな捉え方が出来ますが、今言われたことは本質です。

自分というものにそれぞれの特性があり、その芯を太くしてゆくという事ですね。要するに自分を極めるという事でしょうか。

 

桜井:はい。まずは自分を極める事です。それは究極の選択でもあります。私達のようにプロとして極限を求め、己に勝ち続けてゆくと最終的には「死」に向かってしまうという状況になります。

 

小楠:なるほど。「葉隠」で言われる「武士道とは死ぬ事と見つけたり」その次元まで行く覚悟が必要ということですね。

確かにトップの世界ではNo.1同士の戦いですから、いくら全力を出せと言っても、それだけで勝てる問題ではありません。

更に言えば自分が120%の力を出しても、相手も120%を出したら勝てなくなります。相手の力をどうにか60〜80%に抑えておきたいところです。

そこで自分だけは、120%の力を出すというのが理想だと思います。

100%の力を出すという段階でほとんどの人は、苦戦されるところですが、そこで120%の力を出すにはどうしたらいいのでしょうか。

そのための条件などを教えてください。

桜井:まずは相手に勝とうと思っては駄目です。

それは後から考えることであって、先に自分自身を見つめなければなりません。

もう1つは恐怖についてです。

120%の力を出すには「恐怖」は必要不可欠で、それは本能からしか現れません。ですからはっきり言って、人に教えることが出来ません。

例えば普通の手で人に触れられても怖くありません。しかし画鋲が敷き詰められている手のひらが近づいてくれば恐怖で体が反応します。単純なことですが、このように「恐怖」とは本能から来るものです。

「殺される」と思うことです。

さっきは腕の一部の話でしたが、それでも相当な「恐怖」を感じるのに、それが全身に包まれたような状況があります。何回か自分がリングの中で、対戦相手に殺される夢を見ました。

そこまで来れば充分な恐怖を感じていることになります。

しかしその恐怖にのまれてもいけません。

その恐怖に打ち勝つような気持ちが大事です。僕もあまり打ち勝てるほうではありませんが…。

小楠:わかります。「恐怖」とは本能で感じているものです。

しかしこれは「危機感」という言葉に置き換えられます。今の世の中は平和ですから「危機感を持て」と言っても難しいですね。

恐怖というのは二面性があると思います。嫌でも感じてしまう、またはのまれてしまう人もいます。感情としての一面、もう1つは危機感という言葉に置き換えた時の一面です。

危機感を持たなければいけませんが、実際のところほとんどの人が持っていません。

桜井:なるほど。

小楠:つまり恐怖という感情にのまれてはいけませんが、危機感はちゃんと持つべきという事です。危機感によって、自分の脳が働くのです。

その結果、マッハさんは100%を超えて120%の力を出すということを、再現性をもって実行されています。リングの中で力を発揮する姿を、たくさんの観客が見ていましたから説明は不要でしょう。それが実践の末の成功であり、人を感動させたということですね。

桜井:しかし120〜130%の力を出せと言われても、私は実際に体現したことはありません。

 

小楠:興味深いですね。先程、パンチを当てたら簡単に倒れたというお話をされましたが、この感覚は数字(%)で表せるものではないということでしょうか。仮に数字にするとしたら何%でしょうか。

桜井:それが分からないのです。自分の気持ちが高ぶっている時に対戦してもすぐ終わってしまい、そのときの自分の出来までは、覚えてはいません。

 

小楠:なるほど。バイクのアクセルを全開まで回さないと分からないのと同じですね。ここが限界だというエンドフィールを感じる前にゴールに到着してしまうということでしょうか。確かに走っている途中に、何馬力出ていたのかと聞かれても誰も分かりません。

 

桜井:そうです。自分の感情の高まりで能力が上がったとき、そのスピードに相手がついていけずに試合が終わってしまうイメージです。

 

小楠:なるほど。すごくわかりやすい表現ですね。ついて来れないということなんですね。

 

桜井:はい。そういう事だと思います。実際、試合中に「ついて来れないのか?」と思ったりもしました。

 

小楠:感覚的には大人と子供のような状態ですね。

1つ言える事は、これは一般的なスポーツの世界ではZONE(ゾーン)状態という言い方をします。僕ら武道の世界では「無念無想」という言葉を使います。型の先にある精神世界の話で、音楽でいえば楽譜を1つの間違いもなく全て記憶した結果、全てを忘れ、演奏をしているという様な卓越の状態です。それが人を感動させる状態だと思います。

桜井:アラブのアブダビで王子が主催をしている大会でそれを感じた事があります。

小楠:お話に入って行く前に、ここで説明させて下さい。アブダビコンバットとは、アブダビという国で王子が主催をする御前試合のような大会のことです。各国から最強の人間を集め、王の前で試合をして1番を決めるという組技だけの大会です。そこでマッハ選手は無差別級で2位、ご自身の階級で3位になっています。

桜井:自分の階級で3位だったことが悔しくて、試合後にアブソリュート(無差別級)があったのでエントリーしました。ほとんど勢いで決めたことでした。

小楠:その場で申し込めるんですか?

桜井:はい。そういうものなのです。

小楠来てる人は世界トップの人達ばかりなのに、大会はアラブ系の緩さを感じますね。

 

桜井:そうです。ドラゴンボボールの天下一武闘会みたいなものですね。

ですから、いい意味でアバウトな大会でした。勿論、階級別の試合はエントリーなどもきっちりしています。しかしアブソリュート(無差別級)というのは、誰でも出れるとはいかないまでも対象に当てはまれば出場できるといった感じです。

小楠:当時の御前試合は本当に世界トップの選手だけを王子が集めて開催していて、そこがおもしろいと思います。ですから予選があるような大会でもなく、まさに天下一武道会といった感じなのです。

最近のアブダビのように予選を勝ち上がる形式は、何かが違うように感じます。御前試合じゃなく大会になってしまいました。

桜井:はい。当時は初戦から世界チャンピオンと当たるような感じでした。

小楠:アマチュアレスリングのオリンピックメダリストや柔術やMMA(総合格闘技)などの世界チャンピオン、そういう人ばかりが集まる大会でした。

 

桜井:そうです。その中で実力もありましたが、運良く勝ち上がる事が出来て、最後にジャン・ジャック・マチャドというブラジルの選手と対戦をしました。

小楠:マチャド柔術の兄弟ですね。

桜井:はい。今は韓国でセミナーをしています。この間、韓国に行ったときには現地の人が土下座して彼を待っていると聞きました。

そんな彼らと戦って敗れてしまいました。その後に韓国で僕がブームになり、現地の人がマッハTシャツを着てくれたりした時期があったのですが、ある人がジャンジャックに「そのTシャツの人知ってる、くれ。」と言われて、その場で脱いで彼にあげたという話を聞きました。それは知ってるはずでしょう。戦いましたから。

 

小楠:確かマチャド選手は指が無かったですよね。

 

桜井:僕が戦ったのは3兄弟の3男でした。ないというよりは奇形というものです。

小楠:先天性ですか。

桜井:そうです。

小楠:しかし、それであれだけ強いとはどんな風に戦っているのだろうと疑問に思います。柔術は組技の競技ですから、握る手がなかったらどうしようもないと思うんですが。

 

桜井:片手は普通にあるのですが、もう片方の手は親指と小指しかありません。実際にその手は握ることが出来ないのですが、可動域が凄く広いです。僕が戦って感じたのは手首が一周回ってしまうような印象なんです。

小楠:なるほど。

桜井:その手がずっと、僕の手首にくっついていました。握れないため圧力はありませんが、指がない為非常にコンパクトです。

小楠:なるほど。それでグリップをしているのですね。

桜井:はい。普通のグリップよりも嫌でした。手が小さいために隙間にも入り込まれて、凄い勢いで捕まってしまいます。

小楠:なるほど。ボクシングのサウスポーの優位性と同じように戦ったことがない分、相手が有利になりますね。ジャンジャック・マチャド選手からすればどんなに強くても、やることはいつも同じですが、ジャンジャック選手のような選手と戦うことはみんな初体験です。

桜井:はい。彼はその手で柔術の世界を制した有名な選手です。僕の出場したアブダビコンバット以降でもアブダビでは、続けて優勝をしています。最終的には無差別級にも出て2位になっています。そのときは決勝で柔術の強豪選手、ジャカレイ選手に体重差もありパワーの差で負けてしまいましたが、彼は本当に強い選手ですよ。

小楠:マチャド選手はその手でチョークスリーパーなどの絞め技を普通に極めますが。見ていても驚きです。あれは最後に極めるのに力がいる技ですが、どのようにしているのかが分かりません。手も糸を通すようにスルスルと首に入ってきます。

 

桜井:そうです。手が小さくて、喉元に入ってしまいます。失礼な言い方かも知れませんが、特殊な体型を持った選手は戦いの中で勝つための工夫を徹底しています。逆にそれを武器に変えて機能的に使ってきます。無い人は無いものを工夫して、それを逆に機能的な武器にしています。

小楠:なるほど。それも人との違いによる進化ですね。頭で工夫しているということです。

話を戻しますが、ZONEに入った状態というのは脳がそこまでクロックアップしているということでしょうか。パソコンで例えると、スーパーコンピューターから煙が出るほどの勢いで回転した状態です。先ほどマッハさんがアブダビの試合でZONEを感じたという話がありました。誰との対戦で、どのような状態になったのかをお聞かせください。

 

桜井:1回戦がブラジリアン柔術の世界チャンピオンでした。その時は僕の身体能力が高かったので押さえ込んで判定で勝ちました。

 

小楠:それは凄いことですね。

 

桜井:皆にも凄いと絶賛されました。しかし凄いのはここからです。2回戦はアンドレ・ペデ・ネイラスでした。

 

小楠:世界チャンピオンを何人も輩出している凄い指導者ですね。彼はラスベガスを本拠地とした世界最大の総合格闘技イベントUFCでも世界チャンピオンを輩出しています。当然ですがその本人も強く、佐藤ルミナ選手とも対戦し勝利をしています。その彼と2回戦で戦ったということですね。

 

桜井:はい。元々は彼も寝技の専門家であり、対戦できて光栄でした。

そしてまた勝ってしまいました。当時の僕の身体能力が高かったおかげですが、簡単に勝ったなんて大きなことは言えませんが、勝つことが出来ました。

 

小楠:そのときは、どうやって勝利したのですか?

 

桜井:投げ技のポイントで勝ちました。自分もあの時は、アグレッシブでしたから、あれやこれやと色々な手段を使いました。

 

小楠:投げて押さえ込んだのですか?

 

桜井:押さえ込むことは出来ませんでした。とにかくアグレッシブに、この技がダメなら次はこれ、次はこれ、というように止まらずに技を仕掛けて無事勝つことが出来ました。

3回戦目は大きな選手でした。体重が100kgくらいあって190cmのロシアの選手でした。とてもやり辛かったです。

 

小楠:その選手にも勝ったのですか?

 

桜井:最終的には勝てました。何回も言うようですが身体能力が高かったからです。

 

小楠:はい。相手も只の190cmの人間じゃありませんから、その通りだと思います。

要するにアスリートでトップクラスの190cm、100kgの人です。普通なら手で押されただけで首が折れそうですね。

桜井:はい。パワーが凄いのでこの人は危ないと思いました。しかし僕は逆にチョロQみたいな動きが出来たので、股からくぐって後ろに回るような発想でいました。

 

小楠:この試合の映像は無いんですか?

 

桜井:これはありません。あるのは決勝に行ってからです。是非見せたかったです。1、2、3回戦のような試合こそ面白いですから。

小楠:この当時は本当に御前試合でしたから。映像が記録されていても王子が、個人的に持っているだけですよね。

観客もいないし、王子も客を呼ぶ必要がありません。自分が好きというだけでやっていましたから。動画を撮っても、外に配信しようという気もないと思います。ですからこの大会は、僕も含め格闘技を見ている方でも雑誌等で知ることは出来ますが、動画が残っていません。

桜井:はい。そうなんです。

小楠:そういった状況の中で、戦う時に脳の変化はありましたか?

桜井:自分が自分じゃないみたいです。何かに動かされているような感覚でした。

小楠:自分を上から見ているような感覚ですか?

桜井:近いと思います。

まだ当時はそんな状態にはなっていませんでしたが、その前兆はありました。頭で思ったことができてしまうんです。体がついてくる感覚です。

こうすればいい、ああすればいいという事が出来てしまいました。普通は逆です。頭が思ってから体がついてきます。しかしその必要がなく、何も考えずに思った事が出来てしまいました。脊椎反射ですぐに動ける感覚でした。

 

小楠:なるほど。考えて脊椎を通って体に指令を渡すのではなく、脳を通さずにそのまま反応できるくらいの状態だったということですね。

 

桜井:そうです。実際に考えていませんでしたから、脳を通していません。

例えば試合中のインターバル中に考えたことが、出来てしまいます。

 

小楠:要するにイメージしたことが具現化するということですね。

 

桜井:その通りです。なかなか味わったことのない感覚でした。

 

小楠:これは違う言い方をすると予測しているような、預言者のようなものですね。具現化されることが最初に分かっている状態ですから。

おもしろいですね。イメージしたことが具現化するという言い方もできるし、起きることが先に分かっているという言い方もできますね。

 

桜井:はい。例えば、普通なら相手の股をくぐって後ろに回りこむことなど出来ませんし、見たこともありません。しかしそれが出来てしまいます。

小楠:確かに見た事も無いし、考えられません。ましてやオリンピック級の選手しかいないような大会ですから、信じられないことです。

桜井:オリンピック選手も、おそらく出来ないのではないかと思います。

小楠:脳がそこまでクロックアップしてZONEに入った状態になると、未来がわかるという言い方も出来ます。イメージしたことが、全て具現化できる状態になるということです。

しかし時系列的に言えば、マッハ選手の輝かしいキャリアの中でかなり前半の話ですよね?

桜井:はい。そうです。

 

小楠:ということは、さらに鍛えてゆく中で脳が変容し進化していると思うのです。するとキャリアの最初の段階で、脳の状態がその域まで発達していたという事になります。冒頭で話したような、パンチが当たっていないのに相手が倒れるというのは、段階的には更に進化した状態の脳の話ですね。3回戦はどのように勝ったのですか?

 

桜井:はい。後ろに回りこんで首を絞めても、相手が大きくてなかなか極まりませんでした。

 

小楠:物理的に手が、届かないということですか?

桜井:手は届いたのですが、相手がロシア人で、筋力の差があったのでしょう。何故ロシア人が強いのかというと、アフリカから分かれていった人類が、極寒で過酷な地域に行きそこで暮らしました。そこで耐えられたのですから、あの国には強い遺伝子しか残っていません。その末裔の選手ですから、当然に強いのです。

彼らにはどの地域や国の選手よりも力の差を感じました。もちろん上手い下手はあります。相手にテクニックは無かったのですが、肉体的強さが半端じゃありませんでした。力で立ち技を崩されかけたのも初めてでした。

僕も後ろに回ったときに思いっきり絞めたのですが、全然極まりませんでした。

 

小楠:すごいですね。現在の説だと人類はアフリカの真ん中あたりから生まれてきて、世界に散っていったという話が主流です。そこで僕らは日本にやってきました。

かたや彼らは極寒の地に行き、そこで生きてきました。永久凍土と言われるくらいですから、そこを耕さなければなりませんよね。

 

桜井:今いるのはマイナス40度の世界で生きてこられた子孫だけですから、彼らは何のスポーツをしても強いはずです。科学の力は別として、遺伝子の力は世界一だと思います。

サンボもそうじゃないですか。ヒョードル選手もロシアです。アメリカに行くと科学の力で、いろいろなトレーニング法や最先端の技術を追求することで、強さを手に入れていますが、彼らとは生まれつき持っている力に差があると感じます。

「寄生獣」という映画があります。イメージでは劇中で語られる人間と、寄生獣のパワーの違いに近いです。僕の中の感覚ではそんな感じでした。

 

小楠:なるほど。人を超えているんですね。3回戦はどんな相手でしたか?

 

桜井:リコ・ロドリゲス選手でした。これは動画に残っています。

 

小楠:どうでしたか?

 

桜井:大きかったです。しかし極めて勝ちました。あのときは本当にZONE状態になりました。

 

小楠:相手は、体重何kgありましたか?

 

桜井:120kgくらいあったと思います。身長は197cmでした。後にUFCで世界チャンピオンにもなっています。

 

小楠:それは、すごい。

 

桜井:はい。そのときに相手が「極まっていない、タップしてません。」と言い出しました。

「タップしていないから試合を止めるな。」というパフォーマンスは最近流行っていますよね。当時はそのずっと前の話ですから。そこから始まったのではないかと思っています。

実際に映像を見ると僕の体をちゃんとタップしていました。しかし、彼曰くタップしていないと言い出して、映像が残っていると言ったら、彼は「もう試合終了の時間だというのを彼に教えたんだ。」と弁明してきました。

時間じゃないのに。笑

 

小楠:その時、王子は何て言ったのですか?

 

桜井:審判団も驚いてしまって、会場も湧きました。ターバンをまいたアラブの人たちが桜井コールになってしまい、そこに王子が降りてきて、皆が注目する中で物言いをしました。

部屋の方で審査する事になったらしく僕も付いて行こうとしたら「待っててくれ」と言われ、そこで僕の勝ちが決まりました。王子が決めたそうです。

 

小楠:その話は僕も知っていました。それが御前試合の素晴らしいところですね。

 

桜井:はい。あの試合は本当にZONE状態になりました。

 

小楠:それはどういった身体感覚ですか?

 

桜井:自分が自分じゃないような感覚の前兆が前の試合からあったのですが、思った事がなんでも出来てしまうような状態になり、自分が自分を上から見ているような感覚になりました。それはあの時にしか、そういった状態になったことがありません。

 

小楠:その時しかないのですか?

 

桜井:はい。それ以前にもありませんでしたし、それ以降もないです。なんと言ったら良いのか分かりませんが、おそらく脳が活性化されていたのでしょう。

もちろん体や感性は自分の体にあるままです。しかし所々で全体が見えてしまうんです。

 

小楠:その試合の前に、特別に何かした事はありますか?

この対談はこの後、

第2章 ZONEに入るための条件と精神状態と環境 

第3章 質問:夢や目標は必要なのか?

 と続きます。

 続きは、Amazonにて発売中の電子書籍にてご覧下さい。

 

 

 
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